チュートリアルに入る前に一言。私は LocoAI を提供している Cool Plugins のメンバーです。LocoAI は、この記事で取り上げる AI 翻訳アドオンです。 WordPress には、まったく性質の異なる 2 種類の「翻訳問題」があります。ひとつはサイトコンテンツ (投稿・固定ページ・商品など)の翻訳。もうひとつは WordPress 自体のインターフェース (プラグインのラベル、テーマの文字列、ボタンのテキスト)の翻訳です。本稿では後者の問題を取り上げ、 2026 年時点で AI を使ってどう解決するかを解説します。
多くのガイドが見落とす「2 種類の翻訳」問題
サイトコンテンツ(いま読まれているこの記事、商品説明、お問い合わせページなど)は WordPress のデータベースに保存され、Polylang・WPML・TranslatePress といった多言語プラグインに AI アドオンを組み合わせて翻訳します。一方、プラグインやテーマのインターフェース テキスト(「カートに入れる」ボタン、「設定を保存しました」という通知、フォームプラグインの フィールドラベルなど)は、各プラグインやテーマに同梱される .po / .mo ファイルに存在します。多言語プラグインはこれらのファイルには触れません。 別のツールが必要です。
そのツールが、手動編集には Loco Translate 単体、そして AI による一括翻訳には LocoAI を組み合わせる構成です。 この組み合わせなら、WordPress 管理画面そのものを含め、インストール済みのすべての プラグイン・テーマの文字列を扱えます。
.po / .mo ファイルとは何か
プラグインやテーマは、インターフェーステキストを .po ファイルとして同梱しています。
これは GNU gettext プロジェクト由来のテキスト形式で、プラグインやテーマ内のすべての翻訳可能な
文字列とその各言語訳が列挙されています。WordPress 実行時には、パフォーマンスのため
コンパイル済みのバイナリ形式である .mo が読み込まれます。
あるプラグインで一部のボタンだけ英語のまま、他は自分の言語、という状態を見たことがあるかも
しれません。原因はほぼ確実に .po ファイルの欠落または不完全です。該当ファイルを
翻訳すれば、Loco Translate が .mo を自動でコンパイルし、次のページ読み込みから
UI は自分の言語で表示されます。
Loco Translate — すべての土台
Loco Translate
は、.po / .mo ファイルを WordPress 管理画面内で管理するためのプラグインです。
WordPress.org からインストールして任意のプラグインやテーマを開けば、翻訳可能な文字列の一覧と
言語別の入力欄が表示されます。無料で、メンテナンスも活発、執筆時点で有効インストール数は
100 万件を超えています。

Loco Translate 単体では手動エディターにすぎません。文字列をひとつずつクリックして訳を入力します。 50 文字列程度のプラグインなら問題ありません。しかし Avada のような 5,000 文字列規模のテーマ、 複雑な WooCommerce 拡張、あるいは WordPress 管理画面全体を新しい言語に翻訳するとなると、 手動翻訳は適切な手段とは言えません。
LocoAI — Loco Translate に組み込む AI 翻訳
LocoAI は、Loco Translate 向けの 当社アドオンです。標準の Loco インターフェースに直接 AI 翻訳ボタンを追加するため、これまで通りの ワークフローをそのまま使えます。各文字列に「AI で翻訳」オプションが加わり、さらに数千文字列を 一気に処理する一括翻訳アクションも利用できます。

LocoAI は 5 つの AI プロバイダーに対応しており、うち 2 つは API キー不要で完全に無料です。
- Google Translate:無料・無制限・APIキー不要。LocoAI に組み込まれており、Google Cloud アカウントも不要です。プラグインやテーマの UI 文字列の汎用的な初回翻訳として最適です。
- Chrome built-in AI:無料・無制限・ブラウザー内で完結。APIキー不要、クォータなし、データが端末から外に出ません。未公開プラグイン、商用テーマ、機密性の高い翻訳作業に最適です。
- OpenAI(自分のAPIキーを使う):マーケティング寄りのプラグイン説明文や、トーンが重要なオンボーディングテキストに最適です。
- Gemini(自分のAPIキーを使う):有料プレミアムプロバイダーの中では最安、Google AI Studio の無料枠も寛大です。
- DeepL(自分のAPIキーを使う):ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語などのヨーロッパ言語に強みがあります。
特に注目したいのは最初の 2 つのプロバイダーです。LocoAI 内の Google Translate または Chrome built-in AI を使えば、プラグインやテーマ全体を複数言語に翻訳しても継続コストはゼロです。 APIキーも、月額料金も、サードパーティの翻訳サービスも不要。実務上の .po 翻訳作業の大半は これでカバーできます。
Google Translate または Chrome built-in AI を使い、Loco Translate 内で .po ファイルを一括翻訳。無制限・APIキー不要・月額費用なし。
WordPress.org の LocoAI 無料版
LocoAI には WordPress.org の無料版 があり、有効インストール数は 75,000 件以上です。無料版にも Google Translate と Chrome built-in AI が初期搭載されているため、初日からゼロコストで一括翻訳ワークフローを 一通り実行できます。プレミアム版では OpenAI・Gemini・DeepL が解放され、トーンの精度が 求められる文字列でも高品質を狙えます。機能比較の全体像は 製品ページで確認できます。
ステップ・バイ・ステップ:LocoAI でプラグインやテーマを AI 翻訳する
初回のセットアップは 5 分程度。以降の翻訳ジョブは、Loco Translate のインターフェースから 数クリックで完了します。
ステップ 1. Loco Translate と LocoAI をインストール
WordPress.org から Loco Translate をインストールし、隣に LocoAI(無料版またはプレミアム版)を追加します。両方を有効化すれば、 LocoAI が自動で Loco Translate を検出し、標準インターフェースに組み込まれます。
ステップ 2. LocoAI の設定を開き、プロバイダーを選ぶ
WordPress 管理画面で LocoAI の設定ページを開き、プロバイダーを選択します。
- 無制限の無料翻訳が必要な場合:Google Translate または Chrome built-in AI。APIキー不要です。
- トーン重視のプレミアム翻訳が必要な場合:OpenAI・Gemini・DeepL のいずれか。APIキーを貼り付けて保存します。
私が一緒に仕事をしているプラグイン開発者やサイト運営者の多くは、デフォルトとして Chrome built-in AI を選んでいます。無料、オフライン、プライベート、クォータなし。 マーケティングコピー、プラグイン説明、顧客向けメッセージなど、本当にトーンの磨きが必要な 文字列にだけ OpenAI に切り替える運用です。
ステップ 3. 対象のプラグインまたはテーマに移動
WordPress 管理画面で「Loco Translate」→「Plugins」(または「Themes」)を開き、翻訳したい プラグインやテーマを選びます。Loco が利用可能な言語と既存の翻訳を一覧表示します。
ステップ 4. 新しい言語を追加するか、既存の翻訳を開く
ターゲット言語がまだ存在しない場合は「+ New language」をクリックします。言語と保存場所を 選択しますが、保存場所はデフォルトの「System」を使うのが安全です。これでプラグインや テーマのアップデートで翻訳が消えることを防げます。Loco がソースコードを解析し、 翻訳可能なすべての文字列を見やすい表形式で表示します。
ステップ 5. AI 一括翻訳を実行
LocoAI が有効になっていれば、ツールバーに「Translate with AI」ボタンが表示されます。 クリックすると、LocoAI が未翻訳のすべての文字列を選択中のプロバイダーへバッチ送信し、 訳文を埋めていきます。コーヒーを淹れる時間程度で、1,000 文字列規模のプラグインなら 一括処理全体が数分で終わるのが通常です。
ステップ 6. 確認と微調整
出力された訳文を確認します。特にプレースホルダー、HTML、専門用語を含む文字列は要チェックです。 プレースホルダーは LocoAI が自動で保持しますが、最初の十数件をざっと点検しておくのが 安全です。気になる箇所はその場で編集し、満足したら保存します。
ステップ 7. .mo へコンパイル
Loco Translate は保存時に .mo ファイルを自動でコンパイルします。これで翻訳は
本番反映され、該当プラグインやテーマへの次回リクエスト時から WordPress が新しい訳文を
読み込みます。
LocoAI のプロバイダー選びのコツ
判断軸を短くまとめると次のとおりです。
- すべての既定値として:Chrome built-in AI。無料・無制限・ブラウザー内・APIキー不要。
- 端末で Chrome built-in AI を利用できない場合:LocoAI 内の Google Translate。同じく無料・無制限・APIキー不要です。
- マーケティング色の強いプラグイン説明や顧客向け UI:自分のAPIキーで OpenAI。5 プロバイダーの中で最もトーンが優れます。
- 高品質を維持しつつ大量に翻訳したい場合:Gemini Flash。ほとんどの言語ペアで OpenAI と同等の品質を、おおよそ 10 分の 1 のコストで実現できます。
- ヨーロッパ言語(ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語)のテーマやプラグイン:自分のAPIキーで DeepL。これらの言語では依然としてトップ品質です。
実プロジェクトで最も多いワークフローは、初回の一括翻訳に Chrome AI または Google Translate を 使い、エンドユーザーの目に直接触れる十数件の文字列(ウェルカムメッセージ、プラグイン説明、 オンボーディングフロー)にだけ OpenAI を当てる、というものです。総コストは一括翻訳分が ゼロ、磨き上げ分が数セント程度に収まります。
翻訳ファイルはどこに保存されるか
.po 翻訳でつまずきやすい部分なので、明示しておきます。
- プラグイン(WordPress.org 配信の保存先):
/wp-content/languages/plugins/{plugin-slug}-{locale}.po - プラグイン(プラグイン同梱の保存先):
{plugin-folder}/languages/(プラグインに同梱されている翻訳) - テーマ:
/wp-content/languages/themes/{theme-slug}-{locale}.po。テーマ自体が{theme-folder}/languages/に同梱しているケースも多いです。 - WordPress コア:WP 管理画面自体については
/wp-content/languages/{locale}.po
保存場所は Loco Translate が面倒を見てくれます。デフォルトの「System」保存先は
/wp-content/languages/ で、プラグインやテーマのアップデートで翻訳が失われません。
プラグインやテーマのフォルダー内に保存すると、アップデートで上書きされる恐れがあります。
特別な理由がなければ System のままにしておくのが安全です。
つまずきやすい特殊ケース
%s、%d、%1$s などのプレースホルダー
"Welcome back, %s!" のような文字列には、実行時に値が差し込まれるプレースホルダーが
含まれます。AI は %s を翻訳したり位置を変えたりしてはいけません。LocoAI は
これを自動で処理し、5 つのプロバイダーすべてでプレースホルダーの順序を保持します。
文字列に埋め込まれた HTML
文字列に HTML が含まれることもあります。たとえば
"Click <a href='%s'>here</a> to login" のような形です。LocoAI は HTML 構造を
維持し、周辺のテキストだけを翻訳します。汎用 AI ツールはタグを壊しがちなので、チャット
インターフェースにコピー&ペーストせず LocoAI を使う実用的なメリットがここにあります。
コンテキスト文字列(msgctxt)
プラグインによっては、同じ綴りでも意味が異なる文字列を区別するために翻訳コンテキストを 使います。代表例は名詞の「Post」(ブログ記事)と動詞の「Post」(投稿する)です。LocoAI は コンテキストを AI プロバイダーに渡し、それぞれのケースで適切な訳語が選ばれるようにします。
複数形
"%d comment / %d comments" のような文字列は、言語によって複数形のバリエーションが
変わります。スラブ語族には 5〜6 種類の複数形を持つものもあります。LocoAI は各形を正しく
翻訳し、Loco Translate の UI 上では別々のフィールドとして表示されます。
.po 翻訳のよくあるユースケース
多言語プラグインを出荷するプラグイン開発者
プラグインを作り、スペイン語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・ポルトガル語で使えるように
したい場合。LocoAI から Chrome built-in AI を使って .po ファイルを翻訳し
(未公開のプラグインソースが端末から出ません)、プラグインの /languages/
フォルダーに保存して、翻訳ごと同梱して配布します。該当地域のユーザーは、次回の WordPress
読み込みから自動的に翻訳済み UI を体験できます。
半分しか翻訳されていないプラグインを抱えるサイト運営者
プラグインを使っていて大部分は自分の言語で表示されるものの、新しい機能や利用者が少ない
プラグインの一部はまだ英語のまま、というケース。.po ファイルを Loco Translate
に読み込み、未翻訳の文字列に対して Google Translate または Chrome AI で LocoAI を実行し、
保存するだけです。サイト UI が完全に自分の言語に揃い、コストはゼロです。
クライアントの WordPress 管理画面を翻訳する代理店
クライアントから、インストール済みのプラグインを含めて WP 管理画面全体を日本語化したいと 依頼されたケース。Loco Translate がアクティブなプラグインとテーマをすべて解析し、LocoAI が 未翻訳のエントリーを一括翻訳します。本来であれば数週間の手作業が、数時間で済みます。 無料プロバイダーを使えばコストもゼロのままです。
.po 翻訳に関するクイック FAQ
WordPress.org の翻訳チームが私のプラグインを翻訳してくれることはありますか? 場合によります。プラグインが人気になると、translate.wordpress.org 経由でボランティアの 翻訳者が貢献してくれることがあります。ただし当てにはせず、まずは自分で翻訳を出荷し、 ボランティアによる改善は後から取り込む形がおすすめです。
AI 翻訳はプラグインの品質を損ないませんか?ソフトウェアを出荷する以上、 AI の出力は必ず確認します。最近の AI は UI 文字列の処理は得意ですが、技術的な文脈 (ファイルパス、エラーコード、ブランド固有用語)は調整が必要な場合があります。AI は初稿と みなし、リリース前に顧客向け文字列をひと通り目視チェックするのが現実的です。
WPML、Polylang、TranslatePress 自体の管理画面文字列もこの方法で翻訳できますか?
はい。3 つともそれぞれの UI 用の .po ファイルを同梱しています。他のプラグインと
同じように、Loco Translate と LocoAI の組み合わせで翻訳できます。
バンドルなら、プラグイン・テーマの文字列翻訳に LocoAI、サイトコンテンツの翻訳に AutoPoly・AutoMLP・AutoTP を網羅。多言語スタック全体を 1 ライセンスで賄えます。
まとめ
サイトコンテンツと、プラグイン・テーマの UI 文字列は、ツールセットの異なる別個の翻訳問題です。 UI 文字列(プラグインやテーマの内部にあるもの)には、Loco Translate に LocoAI を重ねる構成が最もすっきりした ワークフローです。有効インストール数 75,000 以上の WordPress.org 無料版にも Google Translate と Chrome built-in AI が同梱されており、いずれも完全無料・無制限です。これだけで、実務上の .po 翻訳作業の大半をカバーでき、APIキーや外部サービスにお金を払わずに済みます。
サイトコンテンツ(投稿・固定ページ・WooCommerce 商品・カスタム投稿タイプ)については、 対応するワークフローは別の場所にあります。 WPML AI 翻訳ガイド、 Polylang AI 翻訳ガイド、 TranslatePress AI 翻訳ガイド がそれぞれを最初から最後まで解説しています。どの多言語プラグインを使うか検討中であれば、 3 種比較記事 が最適な出発点です。


